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だが、やつぱり戻らないで、しきりとこつちを見ながら行く。
「いや、危険はまづない見込だ。だが、何と云つたらいゝか――」
と生返事をしながら、大工の口にした高間医院といふ名前が耳新しく響いたので、房一は思はず微笑した。
徳次は急に目くばせをした。
やつと、徳次は感心した。青島陥落はついこなひだのことで、その時は徳次も提灯ちやうちん行列に出たのである。
練吉は小学校時分のことを思ひ出したのかふいにをかしさうに笑ひ声を立てた。
と、房一は小谷に向つて訊いた。
「おい、やつは所長だぜ。まだ新任で、来たばかりなんだ。――行かう!」
「よろしい。承知した」
「まだつて、はじまつたばかりですよ」
――だが、作者がこんな説明をしている間ぢう、房一はそこで愚図々々と立つていたわけではなかつた。何かしらあての外れたやうな気がすると同時に、房一は漠然と庄谷の気持を見抜いた。彼はそんなことで悄気しよげるやうな性質でもなかつたので、ほんの路傍の挨拶だけで別れると、さつさと上手に歩いて行つた。
「うむ、さうか。玄関のことか」
「困つたもんだね」
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